ホンダシビックハイブリッドFD3ブレーキを踏むとサイドブレーキ警告灯が点灯する
今回はブレーキを踏むとブレーキ警告灯が点灯すると言う事で、お預かりした車両についてご紹介します。
車両はホンダシビックハイブリッドFD3で走行距離は10万kmを超えています。
ブレーキ警告灯はABSの警告灯(黄色)とサイドブレーキの警告灯(赤色)の2種類ありますが、今回の事例はサイドブレーキの警告灯(赤色)のみが点灯すると言う事でした。
シビックハイブリッドの複雑なブレーキ構造
当社のブログを見て「ブレーキを踏むとサイドブレーキランプ警告灯(赤色)がたまに点灯するんです。一度診てもらえますか?」と言う事で、初めて来店されたお客様。
要約すると、
・自宅と会社の往復でブレーキを踏むとたまにサイドブレーキランプ警告灯(赤色)が点灯する。
・常に点灯するわけではないので、気にしてはいなかった。
・ディーラーで見積りをもらうとブレーキの修理だけで約35万円かかると言われた。
・中古パーツがあれば中古パーツで安く済ませたい。
このようなお話しでした。
ディーラーの見積りを確認するとブレーキ系統の部品が2つ記載しています。
ひとつは、サーボユニット(赤枠で囲んでいる部分がサーボユニットです)。
通常ブレーキはエンジンから発生する負圧を利用してブレーキペダルの踏力を増幅させますが(機械式)、シビックハイブリッドの場合はサーボユニット(電子制御)で制御しています。
つまり、機械式ブレーキから電子制御式ブレーキに変更していると言う事ですね。
そしてもう一つは、パワーユニットです。
パワーユニットとは、簡単に言うと電動ポンプでブレーキオイルを圧送する装置です。
パワーユニットのモーター(左の矢印)は先ほどのサーボユニットで制御しています。
このモーターで、ポンプ(右の矢印)を動かしアキュムレータ(赤枠)の中にブレーキオイルを蓄積します。
このように、シビックハイブリッドは特殊な2系統構成のブレーキ構造になっています。
以上のブレーキ構造を把握し、さっそくサービスマニュアルを調べるとシビックハイブリッドはブレーキ系統に異常が発生するとブレーキ警告灯(黄色)とサイドブレーキランプ(赤色)が2つ同時に点灯すると書いてありました。
しかし、今回の車両はなぜかは分かりませんがブレーキ警告灯(黄色)は点灯していません。
通常の力でブレーキを踏むとサイドブレーキランプ(赤色)は点灯しませんが、強くブレーキを踏む時だけサイドブレーキランプ(赤色)が点灯するのでした。
その他にも、ブレーキペダルの踏み込みが通常よりも極端に深い状況です。
その時の動画がこちらです。
原因追及するためには時間がかかりそうなので、一旦車両をお預かりする事にしました。
メーカーに問い合わせをしても原因が分からず
「当社でもちょっと診断してみますね。」と車両をお預かりし、さっそくボンネットを開けてブレーキオイルをチェックするも、きちんと規定値まで入っていました。
規定値までは入っていると言う事は、ブレーキオイル漏れは無いようです。
念のため、ブレーキパイプ、ブレーキホース、ブレーキディスクのキャリパーも確認しましたがオイル漏れはありませんでした。
しかし、ブレーキペダルが極端に深くスカスカな感じがします。
そこでメーカーに問い合わせてみると、過去にブレーキのエア抜きに失敗しエアの噛み込み(気泡)が原因で同じような症状を経験した事があると教えて頂いたので、試しにサーボユニット(マスターシリンダー)とブレーキ4輪のブレーキオイル交換とエア抜きをたっぷり時間をかけて行いました。
すると、左側のフロントブレーキにエア噛み込みがありました。
もしかしたら、これが原因かも?と思いましたが、症状は全く変わりません。
そこで、診断機で故障個所を確認しました。
すると、故障コードU0129 ブレーキシステムC/U通信異常と表示していました。
これはブレーキ系統の電子制御装置に異常がある場合に表示されます。
念のため、サービスマニュアルを片手にサーボユニットを点検するも異常はありません。
写真はサーボユニットを制御する配線のコネクターです。
ブレーキのエア抜きをやっても症状が変わらない、サーボユニットを点検しても異常がない、でも診断機でブレーキ系統に異常があると表示するのでパワーユニットが故障しているのかもしれません。
しかしこの状況をメーカーに問い合わせてみても、何が悪いのか特定できませんでした。
「以前同じような現象でサーボユニットを交換した事はあるのですが、交換してみないと治るかどうかは分からないですねえ。」
「サーボユニットを交換しても症状が変わらないのであれば、パワーユニットも交換したほうが良いですねえ。」と言う返答でした。
他にも、整備振興会の整備部門に問い合わせても原因が特定できず、ネットで調べてみても特定できるような記事はありません。
ブレーキのパワーユニットとサーボユニットの中古パーツを探してはみたものの、在庫ナシと言う回答でした。
さらに不幸な事にパワーユニットを点検しようとしましたが、サービスマニュアルには点検方法が記載されていませんでした。
もしかしてバッテリー?
色々と情報収集する中で、バッテリーが弱っている場合にサイドブレーキの警告灯が点灯するという記事がネットに掲載してありました。
疑っては見たものの、念のためバッテリーを点検してみるとテスターは「不良要交換」となっていました。
もしかして原因はバッテリー?まさかねえ。と思いつつ試しにバッテリーを交換しましたが、状況は変わりません。
やはり、故障原因はサーボユニットかパワーユニットかな。
診断機では異常と出てはいるもののサーボユニットの単体点検では異常は無いし、パワーユニットの単体点検はマニュアルに記載が無いため部品交換しないと治るかどうかが分からない状況です。
これまでの経緯をお客様に説明すると、「ディーラーでも同じことを言われました。仕方無いですねえ、あきらめます。安い軽自動車の中古車は無いですか?」と言う事でした。
何だか申し訳なく思いましたが、ちょうど当社在庫の軽自動車(代車)がありましたので車検2年付で格安でお譲りしました。
その代わりにシビックハイブリッドは廃車してくださいとの事でしたので、それだったらハイブリッド車の教材用として使わせてくださいとお伝えしたところ快諾していただきました。
ここまでがお客様とのやりとりですが、ここから波乱万丈の旅が始まるのでした。
試しにブレーキマスターシリンダーを交換してみる?
診断機ではブレーキシステムC/U異常と表示されているものの、もしかするとブレーキマスターシリンダー内部に何か問題があるかもしれないと考えました。
なぜなら、エア抜きしてもブレーキペダルが深いためです。
ブレーキマスターシリンダーとは、ブレーキペダルの力でブレーキオイルをブレーキ4輪に伝えるピストンの役割をする心臓部です。
写真の赤枠がブレーキマスターシリンダーです。
このブレーキマスターシリンダー内部の油圧が保持できずにブレーキペダルが深いのかもしれない、それで診断機にブレーキシステムC/U通信異常が表示されたかもしれません。
何度もブレーキオイルのエア抜きを行っても変化無し、しかもパワーユニット、サーボユニットが新品で合計約35万円、しかも中古パーツも無いと言う事で、一か八かでブレーキマスターシリンダーを新品に交換する事にしました。
一か八かでブレーキマスターシリンダーを交換
ブレーキマスターシリンダーの新品を発注し、作業に取り掛かりますが簡単には外れそうもありません。
まずは、カウルトップカバーを取り外します。
ブレーキマスターシリンダーを取り外す際にスペースを確保するためエンジンカバーを取り外します。
次にサーボユニットのコネクターを外します。
ブレーキオイルを出来るだけ抜き取り、ブレーキパイプを取り外します。
ABSアクチュエーター側のパイプも取り外します。
運転席足元に潜り込んで、ブレーキマスターシリンダーに装着しているブレーキペダルのピンを取り外します。
こちらがブレーキペダルのピンです。
マスターシリンダー固定しているボルトを取り外し、マスターシリンダーを取り出そうとするとエアコンの配管が邪魔になり取り外すことが出来ないようです。
赤枠がエアコンの配管です。
エアコンガスを抜き取り配管を外し、組付けの際に真空引きエアコンガスチャージをするのか?
それでは時間も費用もかかってしまうので別の方法を考えた結果、ハイブリッドの配線をずらす事にしました。
オレンジ色の太い配線がハイブリッドバッテリーに繋がっている配線です。
念のため感電防止のために、ハイブリッドバッテリーの電源をオフにします。
ハイブリッドバッテリーはリヤシートの裏に装着してある為、リヤシートの取り外しを行います。
リヤシートを取り外したらハイブリッドバッテリーのスイッチをオンからオフにします。
これで安全に配線を取り扱うことができ、ブレーキマスターシリンダーも余裕で取り外すことができました。
ブレーキマスターシリンダー交換
ブレーキマスターシリンダーを取り外すことが出来たので新品と交換します。
右が新品で左が古いブレーキマスターシリンダーです。
念のため古いブレーキマスターシリンダーの内部を分解しピストンのパッキンやシリンダー内の摩耗を確認しましたが、特に異常はありませんでした。
もしかしたら、ブレーキマスターシリンダーを替えても治らないかもしれない。
でも、目視では分からない劣化や損傷が原因かもしれない。
複雑な気持ちのまま、サーボユニットに新品のブレーキマスターシリンダーを組付けます。
パッキンにグリスを塗布し、リザーバータンクを取り付けます。
さあ、いよいよ車両に取り付けブレーキのエア抜きを行います。
まずはマスターシリンダーのエア抜きを行います。
マスターシリンダーのエア抜きは、コネクターを取り付け強制的にサーボユニットを動かして行います。
そのあと、ブレーキの4輪をエア抜きします。
エア抜きが終わりタイヤを車両に取り付け、ゆっくりと前進しながらブレーキを踏みます。
すると、、
症状は変わりません、、。
ブレーキペダルは深いままで、力強く踏むとサイドブレーキランプ(赤色)が点灯してしまいます。
結論を言うと新品に交換したマスターシリンダーが原因では無かったと言う事です。
メーカーに一連の流れを説明したところ、「ブレーキマスターシリンダー単体での交換はしません。交換するのであればサーボユニットと一体で交換したほうが良いですよ。」との回答を頂きました。
しかし、サーボユニット単体点検では異常はありませんでしたし、新品交換すると高額になってしまします。
困りました、、。
一旦保留にし頭を冷やして今後どうするか考える事にしました。
救世主現る!
さて、途方に暮れていたシビックハイブリッドのブレーキ修理ですが2週間が経過した後、中古部品を発見しました。
中古部品は、ブレーキマスターシリンダーとサーボユニットのセット、そしてパワーユニットもセットです。
「おー!救世主が居た!」と喜びさっそく発注しました。
中古部品が届き、再度ブレーキマスターシリンダーを車両から取り外します。
面倒な作業ですが、今回は素早く短時間で取り外すことができました。
せっかくなので前回交換した新品のマスターシリンダーを使用し、取り寄せた中古のサーボユニットに取り付けます。
ここで、パワーユニットも同時に交換しようと思いましたが、交換しないことにしました。
なぜかというと、サーボユニットとパワーユニットを同時に交換した場合、もし治った場合何が原因だったか分からなくなるからです。
最初にマスターシリンダーを新品に交換しましたが、治りませんでした。
つまり、マスターシリンダーが原因では無いということです。
となると、サーボユニットを交換しても治ればサーボユニットが原因。
サーボユニットを交換して治らなければパワーユニットが原因。
パワーユニットを交換して治らなければ他に原因があるはず。
このように徹底的に原因を追究しようと考えたのでした。
残念な結果となりました
ブレーキマスターシリンダー(新品)とサーボユニット(中古)を組み合わせて車両に取り付け、再度ブレーキオイルのエア抜きを行います。
「これで治れば良いけど、、。」と思いタイヤを組付けゆっくり前進してブレーキを踏みこみました。
サイドブレーキランプ(赤色)の点灯もありません。
良い感じです。
「もしかして、治ったかも?」と思った矢先、だんだんとブレーキが深くなり再びサイドブレーキランプ(赤色)が点灯し始めました。
やはりだめだったか、、。
もう一度、診断機を使いブレーキの診断を行ったところブレーキシステムC/U通信異常と表示されました。
ここまで作業を繰り返してきましたが、ブレーキマスターシリンダーもサーボユニットも原因では無いということです。
原因があるとするならば、パワーユニットです。
幸いな事にパワーユニットの中古部品は既に手に入っています。
気持ちを切り替えて、パワーユニットの交換作業に取り掛かります。
パワーユニットを取り外す
パワーユニットは、ブレーキマスターシリンダーとサーボユニットの下に取り付けてあります。
と言う事は、もう一度同じ作業を繰り返すことになります。
ブレーキオイルを抜いて、ブレーキマスターシリンダーとサーボユニットを車両から取り外します。
これがパワーユニットの写真です。
ブレーキパイプを取り外し、配線を外し取り付けボルトを緩めて車両からパワーユニットを取り外します。
取り外したパワーユニットの写真がこちらです。
見て目では、良否判定ができませんね。
と、ここでちょっとテストしてみたい事を思いつきました。
写真の赤枠をご覧ください。
赤枠の中には、プラスとマイナス端子があります。
つまり、モーターを動かす為の電源供給の端子です。
この端子にバッテリー電圧を加えるとパワーユニットのモーターが動く仕組みです。
中古のパワーユニットにバッテリー電圧を加えると、「ウィーン、ウィーン」と勢いよく音を立てながらモーターが作動しています。
車から取り出したパワーユニットにバッテリー電圧を加えると「ウ、、ウ、、ウ、、」と弱々しくしくモーターが作動しています。
もしかしたら、根本的な原因はパワーユニットのモーターかもしれません。
モーターの経年劣化により、ブレーキペダルが深くなり、ブレーキシステムC/U通信異常という事になったのではないかなと思いました。
さて結果はどうなったのか?
結果からお伝えすると、ブレーキの深さも基準値通りに治まりサイドブレーキランプ警告灯(赤色)も点灯することなく正常に作動するようになりました。
原因はやはり、パワーユニットのモーターでした。
ブレーキが深くサイドブレーキランプ(赤色)が点灯すると言う症状から、メーカーや整備振興会に問い合わせたりネットの記事や整備マニュアルを調べてみても原因は解らなかったのですが、単純にパワーユニットのモーターの経年劣化でした。
メーカーの方も部品を交換してみないと分からないという返答でしたが、ここまで原因追及するにしても時間がかかってしまいますし安心してお客様に乗って頂く為にサーボユニットとパワーユニットの同時交換を見積りしたのだと思います。
かなり時間を費やしましたが原因が分かってホッとしました。
現在ブレーキの修理を行ったシビックハイブリッドは、1000kmほど走行しましたがブレーキの異常はありません。
ただ、ハイブリッド車なので独特なブレーキのクセがあります。
今後も注意しながら経過をたどっていきつつ、他に不具合などがあれば研究していく予定にしています。
最後までご覧いただきありがとうございました。
ぜひコメントもおまちしております。
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